(第3回)一番のブラック企業は、なんと公立学校だった!

教師の残業問題
10 /11 2017
teacher_tensaku_man.png  ~教師の残業問題について考える~(弁護士 岡井理紗)

【教師の残業時間は過労死ラインを超えています】
 これまで述べてきたように、教師の残業時間は、年々増えています。
 今では、過労死ラインとされる、1ヶ月の残業が80時間を超える教員が、小学校で約3割、中学校で約6割に達しているようです。
 それなのに、教師には残業時間に見合った残業代が支払われていません。
 この問題の根幹にあるのは、教師の仕事の特殊性を理由に作られた、公立学校の職員を対象とする法律の存在です。
 この法律の特殊性・問題点について、公立学校の職員以外の労働者の残業代がどうなっているのかと比較しつつ、お話しします。

【民間企業・地方公務員の残業代は?】
 まず、民間企業については、労働基準法という法律で、時間外労働についての定めがあります。
 その内容は、会社と労働組合等が三六協定と呼ばれる時間外労働に関する協定を結ぶことにより、会社は時間外労働を命じることができるようになり、時間外労働をした労働者に対しては、その労働時間に応じた手当が支払われるというものです。
 地方公務員についても労働基準法で定められていますが、やや特殊で、「公務のために臨時の必要がある場合」に時間外勤務を命じることができるという内容になっています。
 ただ、時間外勤務をした場合の手当てについては、民間企業と同様、時間外勤務手当が支給されます。

【公立学校の職員に適用される法律・・・「給特法」の存在】
 公立学校の職員も「地方公務員」ですので、本来であれば、上記のとおり時間外勤務時間に見合った時間外勤務手当が支給されるべきです。
 しかし、公立学校の職員にのみ適用される法律があるために、勤務時間に見合った手当が支給されていないのです。
 その法律は、「給特法」と言われるもので、正式名称は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」といいます。
 この法律には、時間外勤務手当は支払わず、代わりに月給の4%にあたる教職調整額を一律支給するということが定められています。
 その上で、教員の時間外勤務が増大しすぎないように、給特法は、学校は教員に原則として時間外勤務を命じてはならず、臨時または緊急の場合にだけ時間外勤務を命じることができるという内容にしました。
 しかし、実際、公立学校の職員は、「臨時または緊急の場合」だという理由で時間外勤務を学校から命じられて行っているわけではなく、「自主的に」時間外勤務を行っているということになっているのです。
 「自主的な時間外勤務」はどんどん増え、もともとは原則時間外勤務は禁止であったはずなのに、いつの間にか過酷な勤務状況になっている現場は多く存在します。
 つまり、結局は時間外勤務の増大への歯止めにはなっておらず、それどころか時間外勤務をしても時間に応じた手当を支払わなくていいというおかしな状況が認められてしまっているのです。

【給特法の改正を早急にするべきでは?】
 結局過酷な労働をせざるを得ない実情があるのならば、原則時間外勤務を命じられないことを前提に低額の教職調整額のみを支払うこととしている給特法の意味は、すでに失われているといえます。
 このような実情からすれば、一刻も早く、この給特法を改正し、公立学校職員にも時間外勤務時間に見合った手当が支給されるべきだと思います。
 ただ、現在は月給の4%しか支払われていないものを時間外勤務時間に見合った額まで増やそうと思えば、莫大な財源が必要になります。
 おそらくそのような財源は確保できないでしょう。
 しかし、勤務時間に見合った手当を支給するという制度になれば、学校側が職員の労働時間を正確に把握し、過酷な労働の実態を知ることになるでしょう。
 また、財源が足りないのであれば、各職員の仕事内容のうち、省ける部分はないか、ボランティア等のスタッフを募集してカバーできる部分がないか等の見直しがなされることも一定程度期待できます。
 公立学校職員の労働問題の改善のためには、給特法の改正は必須であるように思います。

~次回は、公立学校の職員に適用される法律とは?を考えます~

(第2回)一番のブラック企業は、なんと公立学校だった!

教師の残業問題
09 /08 2017
teacher_tensaku_man.png  ~教師の残業問題について考える~(弁護士 岡井理紗)

前回、日本の公立学校の教師は、授業、部活、人生相談など、様々な業務を一挙に引き受けている傾向にある、というお話をしました。
今回は、より具体的に教師の残業時間増加の原因を考え、特に部活動の問題については詳しく考えたいと思います。

【授業の準備のために時間外も働いている】
  小さいころ、「学校の先生は、授業中に生徒たちを指名して答えさせているだけでいいな」「大変な量の宿題を与えるだけで、自分は宿題もしないし」などと思っていました。
 しかし、それは大きな間違いであったことが、大学時代に塾講師のアルバイトをしてはじめてわかりました。
 授業をするために、教師がどれだけ準備をしていたか、ということを初めて実感したというわけです。
 教師は、放課後も次の日の授業に向けて準備をしているようですが、最近のニュースを見ていると、どうしても時間が足りず、家に持ち帰って仕事を続けるというようなことをしている方もいるようです。
 これは、教師の精神衛生上、また、それが生徒に与える影響を考えてみても、とても重大な問題だと思います。
 しかし、教師には、時間外に働いた時間に見合う残業代は支払われていません。

【「部活動の顧問」という仕事】
 公立学校(特に中学校・高校)の教師の多くは、上記のような教科指導関係の仕事に加えて、部活動の顧問という仕事をも任せられています。
 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、中学教師の課外活動指導時間は、加盟国平均が週2.1時間なのに対し、日本は3倍以上の週7.7時間と際立って長いことがわかりました。
 教師の多く(ほとんどかもしれません)は、教科指導のプロになりたいという志望をもって教師になっているのだと思います。
 しかし、教師として部活動の顧問を任された結果、肝心の教科指導の準備のための時間がなかなかとれず、常に仕事に追われているという事態が生じている例があるようです。

【部活動の時間は労働時間ではないという問題】
 上記のとおり、教師は教科指導関係の仕事をし、それに加えて部活動のために多くの時間を割かなければならないために、教師の勤務時間が増えています。
 そのこと自体もとても大きな問題なのですが、加えて、さらに大きな問題があります。
 それは、部活動は、教育課程の中に位置づけられていない「課外活動」であるために、部活動の顧問としての作業をしている時間は、「労働時間ではなく、教師が自主的に活動しているもの」と考えられていることです。
 顧問になることはほぼ強制されるというのが現状であるようですが、それでも「自主的なもの」とみなされてしまうのです。
 労働時間にあたらないということはすなわち、労働時間に対する対価である賃金(残業代)が支払われないということです。
 早朝練習に付き合っても、休日の練習や試合に付き添っても、それにかかる移動交通費もなかなか出ないというのが現状で、ましてや妥当な残業代が出るようなことはほとんどないようです。
 たしかに、生徒たちにとって、部活動に付き合ってくれる教師は、とてもありがたく、自分たちが安心して部活動に打ち込むためには、なくてはならない存在です。
 ですが、そうであるからこそ、教師の方々の心と体の健康や、勤務時間に見合った賃金(残業代)を支払うことは重要なことなのではないかと思います。

【公立学校の職員に適用される法律の謎】
 ここまで読んでくださった方には、「教師には、残業時間に見合った残業代が支払われていないってどういうこと?」「どうして部活動の顧問は労働時間じゃないの?」というような疑問が生じているのではないかと思います。
 これは、公立学校の職員に適用される法律があることに原因があるのですが、この話は次回にしたいと思います。

~次回は、公立学校の職員に適用される法律とは?を考えます~

(第1回)一番のブラック企業は、なんと公立学校だった!

教師の残業問題
08 /09 2017
teacher_tensaku_man.png  ~教師の残業問題について考える~(弁護士 岡井理紗)

【教師の残業問題について考えます】
 最近、新聞やニュース番組で、教師の残業問題が取り上げられています。
 たしかに、自分の学生時代を振り返ってみると、学校の先生は、授業、部活、人生相談など、様々な仕事を一挙にこなしていたスーパーマンのような存在だったと感じます(当時はまったくそんなことを思っていませんでしたが)。
 学校の先生が仕事に追われ、長時間の残業をしているというのは、先生の仕事内容からすると、当然の結果です。
 今、なぜ教師の残業が問題になっているのか?
 どのような点が問題なのか?
 これから数回にわたって、考えていきたいと思います。

【教師の仕事の現状は?】
 教師の労働問題を考えるにあたって、まずは、現在の公立学校教師の仕事の現状を把握したいと思います。
 教師の仕事の中心が授業にあることは間違いありません。
 しかし、日本の公立学校の先生の中で、授業だけをしている先生なんて、全くといっていいほどいません。
 部活の顧問、運動会、入学式等の準備、生活指導といった校内の仕事に加え、悩みを持つ子供たちの気持ちに寄り添ったり、朝起きてこない子供を迎えに行ったりといったことまですることもあるというから驚きです。
 仕事は非常に広範囲で、オフィスワークのように時間を見積もることもできないような内容です。
 これはもうほとんど、「一人一人の親代わりになることを求められている」といっても過言でないようなレベルだといえます。
 
【教師の仕事とは何か?】
 公立学校の教師は、どこまでこなすべきなのでしょうか。
 たとえばアメリカやイギリスでは、教師の労働時間は授業時数をベースに決められるようです。
 教師は授業をすることの専門家のような存在であって、生活指導などは他の専門スタッフに任せるという制度になっているのです。
 これに対し、今の日本の公立学校の教師は、先ほど述べたような広範囲の業務を、なんでも屋のようにすべてこなしています。
 生徒と触れ合う中で必要になる様々な仕事を、専門スタッフを利用して分業にすることも、ある程度必要なのではないでしょうか。
 分業にすれば、教師は、本来の仕事である授業をするということに全神経を集中させることができ、授業の質も上がることが期待できますし、子供たちは、生活指導や精神的なケア等は、専門スタッフから受けることができます。
 つまり、専門スタッフを利用することは、教師のためだけではなく、子供たちのためにもなると考えられるのです。

次回は、部活は教師の労働に含まれるのか?を考えます~