相続税の支払に預貯金は使えない!

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09 /21 2017
  ~平成28年12月の最高裁決定がもたらしたもの~(弁護士 大澤龍司)

【最高裁の大法廷の相続に関する重要な変更がなされた】
 昨年(平成28年)12月初めに《最高裁判所は遺産である預貯金の扱いについて、従来の扱いを変更する決定》という記事が掲載されました。



 この記事によると、相続に関する重要な決定が最高裁でなされること、又、15名の裁判官で構成される大法廷で判断されると記載されていました。
 最高裁は5人の裁判官で構成される小法廷で判断されることが多いのですが、この事件が大法廷で判断されるということは、極めて重要な判決であることを意味します。

 通常は、最高裁判所は法廷を開かず、書面審査だけで判断されるのですが、今回は法廷を開きました(法律用語で《弁論が開く》といいます)。
 これは不服申し立ての対象となった高等裁判所での判断を覆すときに開かれます。
 ところで、高裁の判断は、それまでに出されていた最高裁の判断に沿った内容でしたので、それが覆るということは、とりもなおさず、預貯金の扱いについての最高裁の裁判例が変更されるということをも意味します。

 ※注・・最高裁の判例の重要性
 相続については、民法という法律があります。
 しかし、民法は相続に関して合計で163条の条文しかなく、そのため、具体的なケースでは法律だけでは判断できない場合が多いです。
 ただ、長年にわたって裁判所がしてきた裁判例があるので、それが解決の指針となります。
 私達弁護士は、条文に記載されていないようなケースの依頼を受けた場合、過去の裁判例はどのようなものかを調査します。
 過去にこのような裁判例があるのなら、似たようなケースであれば。将来、裁判所がどのような判断をするかの予測がつけられます。
 ただ、過去の裁判例の中でも重要性に差があり、最高裁判所の判例が最も重要であり、高裁や地裁、家裁は原則として最高裁の判例に従った判断をしまので、私達、弁護士は最高裁でどんな判決がでたのかをいつも注目しています。


【従来、預貯金は遺産分割の対象とは扱われてこなかった】
 新聞記事を見ると、タイトルは「預金、遺産分割の対象か」となっています。
 この記事からもわかるように、問題となったのは《遺産の中に預貯金が含まれている場合、この預貯金は遺産分割の対象になるか?》ということです。
 よほど法律に詳しく人でない限り、預貯金は遺産分割の対象になると思われるのではないでしょうか。
 しかし、最高裁は昨年の12月の決定までは、そのようには考えていなかったのです。
 そのため、遺産分割調停を申し立てても、預貯金は、当然には調停で遺産分割対象ではありませんでした。

【原審では、預貯金は分割せず、不動産だけが分割された】
 さて、今回の決定の対象となった事件の内容は次のようなものです。


 お父さんが死亡し、相続人は子である兄弟2名でした。
 遺産は預貯金が約3800万円と不動産(評価証明額で約250万円)でした。
 家庭裁判所で次のような内容の審判が出されました。

《不動産は、申立人の取得とする》

 不動産だけが分割審判の対象であり、預貯金については全く触れられてはいませんでした(大阪家庭裁判所 平成26年12月5日審判)。

 この審判につき不服申し立てがなされましたが、高等裁判所の判決は次のようなものでした(大阪高等裁判所 平成27年3月24日決定)。

《不動産は、原審申立人及び原審相手方の持分2分の1ずつの共有取得とする》

 ここでも、不動産だけが問題とされ、預貯金については家裁と同様に全く触れられていません。

 3800万円もある預貯金は分割の対象にされず、わずか250万円しかない不動産だけを遺産分割して、遺産分割は終了するという扱いについては、多くの人が《遺産分割は終了していないじゃないか!》という気持ちを持つのではないでしょうか。
 結局、この事件は最高裁判所に不服申立がなされ、今回の決定に至ったのです。

【合意がないと、なぜ、預貯金を遺産分割の対象にできないのか?】
 預貯金を遺産分割にしなかった理由について、家裁の審判では次のように述べています。
 「なお、被相続人の遺産には、預貯金(外貨預金を含み、日本円換算で、後記調停の申立時において合計約3800万円)もあったが、これについては、遺産分割の対象とすることについての合意がないので、本件審判において分割することはできない」
 簡単に言えば、「法定相続人間で遺産分割の対象とすることの合意がなかった」ので、預貯金は遺産分割の対象にしないというのが理由であり、ものすごく簡単な説明です。
 しかし、《合意がないとなぜ、遺産分割の対象にならない》という点の説明は全くありません。
 この点については、家裁や高裁はこれまでの最高際の判例に従って判断したものであり、《合意がないとなぜ、遺産分割の対象にならない》ということは、敢えて説明をするまでもないことだと考えていたのです。
 この点は、次回に説明していきます。